きっかけは「年末に予定がない」だった
12月28日、仕事納めの翌日。私は都内の保護犬施設で、初めてのボランティア体験に参加した。独身会社員の私にとって、年末年始は帰省するでもなく、友人と会うでもない、ぽっかりとした空白の時間だった。「何か意味のあることを」と軽い気持ちで申し込んだのだが、そこで見たものは、想像以上に静かで、重い現場だった。
この記事では、私が体験したボランティアの一日をQ&A形式で振り返りながら、独身会社員が保護犬を迎える前に知っておきたい「見送る」という選択肢について考えてみたい。
Q. 年末の保護犬施設って、どんな様子でしたか?
A. 想像していたより、ずっと静かでした。テレビやSNSで見る「里親募集イベント」の華やかさとは対極で、施設には11頭の犬がいて、そのうち半数以上がシニアや持病持ち。年末は帰省や旅行で見学希望者が減り、スタッフさんは「この時期はどうしても足が遠のく」と話していました。
ただ、静かなのは見学者だけではありません。犬たちもどこか落ち着かない様子で、外から聞こえる花火の音や救急車のサイレンに反応して吠える子がいました。年の瀬特有の音や気配が、犬のストレスになっていることを初めて知りました。
Q. ボランティアでは具体的に何をしたのですか?
A. 主な作業は、犬舎の掃除、散歩、そして「預かり体験」の補助でした。私は午前中に3頭の散歩を担当し、午後はスタッフさんの横で、トライアル中の犬の記録をとるお手伝いをしました。
印象的だったのは、散歩のときにスタッフさんが必ず「今日はどうだった?」と犬に話しかけ、リードの持ち方や歩くペースを細かく観察していたことです。単に歩かせるのではなく、犬の表情や尻尾の動き、地面の匂いを嗅ぐ時間の長さまで記録していました。「この子は冬の路面が苦手で、塩が撒いてある道では歩かなくなる」といった具体的な情報が、引き継ぎノートにびっしり書かれていました。
Q. 独身会社員の自分に、保護犬は迎えられると思いますか?
A. この質問は、施設スタッフさんに直接ぶつけてみました。返ってきた答えは、「迎えられるかどうかは、暮らしの形より“続けられるか”で決まる」というものでした。
例えば、私のような独身会社員の場合、平日の昼間は留守になります。その条件で迎えられるかは、犬種や年齢、性格によっても違うし、留守番中の環境をどう整えるかで変わってくる。スタッフさんは「迎えたい気持ちが先に立つと、見落とすことがある」と忠告してくれました。
実際、施設には「一人暮らしで迎えたものの、仕事の異動で飼えなくなった」という理由で戻ってきた犬もいました。その話を聞いたとき、私は「自分ごと」として考えざるを得ませんでした。
Q. 「見送る」という選択は、冷たいことですか?
A. これが、この体験で一番考えさせられた問いです。ボランティアの終わり際、スタッフさんがこんなことを言いました。「見学に来た人が、『この子に決めます』と言うのと同じくらい、『今日は見送ります』と言うのも大事な判断。むしろ、迷いながらも見送る人は、犬のことをよく見ていることが多い」
施設では、年末年始に「勢いで迎えてしまい、年明けの忙しさで生活が回らなくなる」ケースが少なからずあるそうです。特に独身の場合、急な残業や出張で散歩の時間が確保できなくなることがある。そのリスクを自覚した上で「今ではない」と判断するのは、犬に対して誠実な態度なのだと、私は受け取りました。
Q. 迎える前に、独身会社員がやっておくべきことは?
A. スタッフさんに聞いた具体的な準備を、箇条書きにしておきます。
- 自分の一日のスケジュールを書き出し、散歩に使える時間を現実的に計算する(朝30分・夜30分が確保できるか)
- 年末年始や繁忙期の自分の働き方を振り返り、犬の世話が滞る期間がないか確認する
- 帰省や旅行の際の預け先(ペットホテル、信頼できる知人)を事前にリストアップしておく
- 賃貸の場合は契約書でペット飼育の条件を再確認する(「小型犬のみ」などの制限がないか)
- 施設の見学は複数回行き、犬の状態を日を変えて観察する
特に最後の項目は、スタッフさんが強調していた点です。「一度の見学で決めず、できれば2回、3回と足を運んでほしい。犬の体調や気分は日によって違うから」とのことでした。
Q. 実際に迎えるとしたら、年末年始は避けるべきですか?
A. 一概に避けるべきとは言えませんが、スタッフさんは「年末年始は環境が大きく変わる時期。できれば避けたほうが、犬のストレスは少ない」と話していました。帰省の準備や来客、花火や除夜の鐘など、犬にとっては刺激が多い。また、迎えた直後に動物病院が休みに入る地域もあり、体調を崩したときの対応が遅れるリスクもあります。
ただし、施設によっては「年末年始こそ、ゆっくり向き合える期間」と捉え、トライアルを推奨しているところもあるそうで、一概には言えません。大切なのは、迎える時期の自分の生活が、犬との新しいリズムを作るのに適しているかを見極めることだと感じました。
Q. この体験を経て、今の気持ちは?
A. 正直に言うと、まだ「迎える」決断はできていません。でも、以前よりずっと具体的に、自分の生活と犬の暮らしを重ねて考えられるようになりました。ボランティアで出会った子のうち、一頭のシニア犬がとても人懐っこくて、散歩のあともしばらく私の足に寄り添っていました。その子のことを思い出すと、今でも胸が締め付けられます。
それでも、「迎えられないかもしれない」という不安を抱えたまま勢いで決めるより、今はしっかり準備をしようと思っています。スタッフさんが言っていた「見送る勇気も、犬を思う気持ちの一つ」という言葉を、お守りにしています。